聞き取り困難症・聴覚情報処理障害(LiD/APD)
当事者ニーズに基づいた聴覚情報処理障害の診断と支援の手引きの開発 AMED
聴覚情報処理障害の症状を示す小児の学習支援のための検査法および補聴技術の開発 科研費

当事者の方へ

対処法-人とのかかわり・日常の工夫

周囲の協力・理解が大切

 LiD/APDは聴覚に異常がないため、周囲への伝え方に悩む人も少なくありません。しかし、学校や職場で支障なく生活するためには周りの人の配慮やサポートが必要です。具体的に伝えることによって、身近な人に理解してもらい、精神的に寄り添ってもらうことも大切です。また、相手との関係によってどのように伝えるかも変わってきます。次の内容を参考に、それぞれでできる工夫を整理してみましょう。

【APDが何か】を医学的に説明したいとき

 聴力検査では異常が無く、音や声は聞こえますが状況によって音声を言葉として聞き取れないことがあります。この症状は聴覚情報処理障害/APD(Auditory Processing Disorder)と呼ばれます。雑音がある環境や、複数の人が同時に話をするときに聞き取れないことが多いです。これまではあまり周知されていませんでしたが、近年この症状を持っている人は少なくないことがわかってきました。
 ご自身の症状に当てはめつつ、上記の文章を参考に伝えるのもよいでしょう。

それぞれの工夫と配慮

アイコン家庭で

自分で出来る工夫
  • テレビの字幕を表示したり手元スピーカーを利用する。
  • 重要な部分は繰り返して確認し、最後にもう一度言ってもらう。
  • 日頃から規則正しい生活を心がけ、睡眠不足や体調不良を避けてベストな状態を保つ。
家族が協力出来ること
  • 名前を呼んで注意を向けてから話し始める。
  • 会話をするときは静かな場所で、掃除機や水道、ドライヤーなど大きな音に注意。
  • 複数人での会話は、声がかぶらないように一人ずつ話す。

アイコン職場で

自分で出来る工夫
  • 仕事に支障が出ないよう、LiD/APDについて最初に伝える。
  • オフィスではコピー機やエアコン稼働音など雑音の少ない席にしてもらう。
  • 打ち合わせや会議等は、リアルタイム文字変換アプリや許可を得た上でボイスレコーダーなどを使用して聞き取りの補助手段とする。
周囲が出来る職場環境サポート
  • 正確な聞き取りが必要となる業務(電話やインターカムを使用する業務等)が少ない部署に配属する。
  • 重要な指示は個別に静かな部屋で受けるか、メモやメール等で文字化して伝える。
  • 補聴機器を使用する場合には、その使用に対して協力する。

アイコン学校で

自分で出来る工夫
  • 先生の声が聞き取りやすい席にしてもらう。
  • 送受信機を使用して話し手の先生にマイクを付けてもらう。
  • 人的なサポートや支援を活用する。
周囲が出来る教育環境サポート
  • 板書をまめにしたり視覚的な資料を多く使うなど、先生による授業の工夫
  • 椅子や机の脚にカバーを付けて大きな音がするのを軽減する。
  • 担任からクラスメイトやクラスメイトの保護者たちへ、機器使用や症状についての情報共有をしてもらい理解を得る。

学習時における人的サポート

学習支援員、支援教室

  • 小中学校で、教職員と連携を図りながら学校生活を支援するノートテイカー
  • 大学などで、聴覚障碍者の情報保障として講義内容をリアルタイムで支援する。
  • 2~3名が隣に座り、ノートやPCを使用して文字起こしをしたり、教科書や資料をペンで追って進行箇所を伝える。

高校進学の選択肢

 高等学校は義務教育ではないため、進学先も自由に選択可能です。
 この選択の余地は、聞き取り困難の特性を持つ方々にとって、かえって悩みの種となることもあるのではないでしょうか。
 このページでは、近畿APD当事者会の皆様に全面的にご協力いただいた『高校進学の選択肢-それぞれのメリット・デメリット-』についてのアンケート回答をご紹介いたします。

全日制高校

週に5~6日、平日昼間の時間帯に授業を設ける学校を指す。3年以上の在籍と単位取得で卒業可能。

メリット デメリット
  • メリット
  • コミュニケーション力がアップする
  • 授業内容が充実している。特に大学進学など"学力"を必要としている人には大きなメリットで、その後の進路を選ぶ上で学歴の欄で不利になりにくい
  • こんな人もいると知ってもらう努力ができる。自分を知ってもらうためにどう伝えるか、どんな工夫をすると生きやすくなるのかを考えられる
  • 進路指導や進路相談が丁寧で、進路選択の幅が広がる。ハローワークの業務を一部受託しており、校内でさまざまな就職指導ができる
  • 通信と比べてレベルの高い学習ができ、一般的な社会集団での活動を体験できる
  • 大学受験の時に全日制が中心だから受けやすい
  • 生活習慣が身につく
  • 勉強や友人作りに励むことができる
  • 部活、生徒会活動、修学旅行、校外行事など多くの課外活動があり、多様な経験ができる。 いろんな友人と出会う機会がある
  • 多くの人が全日制高校に行っているので分かりやすい
  • 毎日学校で先生や友人と会って一緒に過ごすという高校生らしい生活を送ることができる
  • 学位を得られる、部活などの多様なコミュニティの接点を持つことができる
  • きちんと校則の事や教育などが受けられる。 私立に通っているが、人数が多くて県外の学生と関わる機会も多いので地元だけでなく広く知ることができる
  • 行事等が楽しい
    イラスト
  • デメリット
  • 口頭での説明が多いため、集中力が切れたり聞き取れなかったりしてついていけなくなることがある
  • 科目による教室移動が多い事に伴い、室内環境が変わるため聞き取りにくさに差が出る。自身の組の教室で補聴援助機器の使用や環境作り等の配慮を受けていたとしても、他の教室で同じような配慮が受けづらい
  • グループワークなどでは全く話を理解できない
  • 自由度が低い
  • 進学校だとより"勉強"に偏るので、個人への配慮を受けにくい(個人的な経験)
  • 毎年、担任や担当教科の先生に障害についての説明が必要
  • 授業やクラスの様子が騒がしい時には聞き取り困難に陥ることがある
  • 聞き取ろうとすることの辛さや神経疲労、対人関係の心配がある
  • APDへの理解が広まっておらず、合理的な配慮や個別の支援はほとんど行われていない。学校によってかなり異なるが、APDだけでなく発達障害、知的障害、身体障害、精神障害などがある場合、十分な支援を受けられるとは限らない
  • 感覚過敏のある人は、人が多くて行事も多い環境は辛い。 疲れやすい人、体調が不安定な人には辛い場合がある
  • いろんな人がいると知りながらも、平等が大切だという意見もあり合理的配慮を求められないこともある
  • 聞いて理解するのが苦手で見て理解する方が得意だったら、ヘトヘトになりながら毎日真面目に授業を聞くより、その間に自分で学習した方が効率が良い気がする
  • 障害や病気等になった時、親身になって対策や相談に乗ってくれることが殆どない。個々に対応をしてもらえない
全日制高校に通っている当事者の方が感じる事
  • 実際に高校に通っていたときはまだAPDの存在を知らず、聞き取れなかったり口頭での説明を理解できなかったりするのは全て努力不足だと思っていたので悩みました。(現在大学生の方)
  • 私立に通っているのですが、まだまだ理解を得られないです。ただ、空き時間などに親切な先生は親身に授業内容の確認をしてくれることもあります。まだまだ、先生や友達に打ち明けられません。先生対象のAPD講習を行って欲しいです。
  • 自分は私立出身で外部クラスは別棟のため受けやすかったですが、内部クラスでは色々ときつかったかなと思います。
  • 休まず通いたいけど頭痛や神経が疲れすぎて欠席が増えてしまいます。教室にいるのがつらい時に別室で休める環境が欲しいです。また、科目や体調によって聞こえにくさが違うので、聞こえにくさがひどい時は別室か家でオンライン授業を受けたものを出席認定して欲しいと思っています。(現状、教室の雑音がつらいため廊下に出て授業を受けていることがあるが教室にいないため欠席扱いになっていて、進級のための出席日数が厳しくなるので困っている。)
  • 本当の平等とは? 学びやすい環境を作りたいだけ、工夫したいができない歯がゆさもあります。 でも、全日制高校に行ったことの後悔はないです。いろんな人がいると知ることができ、工夫しよう知ってもらおうと考えて行動することができたから。
  • 人がたくさんいるのでうるさくなると先生の声が聞こえないし、理解してくれる人が少ないと思います。1日の大半を学校で過ごすことになるので、学外での活動は多少制限されると思います。 環境は人によって異なりますが、私の場合は授業参加や課題提出を熱心にしなくてもよかった点が結果的に良かったです。 また教師や学生間で良い縁に恵まれたり、良い経験をすることもありました。
  • 人が多い分、聞き取ることが殆どできない。(静かな場所は別です。)聞き返すことが多いし、それによって人間関係で困ることが多いと感じます。

定時制高校

昼間(午前・午後)と夜間の3部制であり学ぶ時間は選択可能。一般的に在籍期間は4年間必要。

メリット デメリット
  • メリット
  • 学力に合った対応
  • 自由度が高く、自分のペースで勉強できる
  • 人が少ないため先生方も生徒ひとりひとりへの対応が手厚い →不登校生などの対応が上手い
  • 学外での活動にリソースを割くことができる
    イラスト
  • デメリット
  • 自分で単位などを管理しないといけない →自己責任の面が強い
  • 勉強についても自分が必要とする学問を調べて自分で学ぶ必要がある
  • 学内で得られる経験が全日制課程とは異なるので、人によってはデメリットになるかもしれない
  • 生活サイクルや体内時計が狂いそうになる
  • 人によっては差別的な見方をする人もいると思う>

通信制高校

登校日数を選択可能で一般的に単位制が導入されている。卒業までの期限が無く、自宅学習のため計画的な勉強進行が必要となる。

メリット デメリット
  • メリット
  • 通信制ネット高校の場合、動画配信での授業なので何度でも視聴し直せる。聞き取る事が出来なかった部分は戻って学習出来る
  • 自分にとって聞き取りやすい場所に移動するなど自由に環境を整えられる。感覚過敏があっても大丈夫
  • 聞こえやすい環境を作れると教室よりつらくなく授業が受けられる。自分のペースで休憩したり集中できて、出席日数を気にしなくてよい
  • 途中からの編入が容易で、自分のペースで自由に勉強できる
  • 行事が少なく参加は任意。人付き合いを気にしなくてもよい
  • 音声がある教材の場合、自分で音量を調整できる
  • 学年制をとらない学校の場合は原級留置はない
  • デメリット
  • モチベーションのコントロールがきびしい
  • 興味のある科目を選択できる反面、大学受験には対応しにくい
  • 教員が常についておらず、自分で計画を立てて課題をこなさないと単位がとれない
  • 質問や難しい授業の学習が難しい。友達関係を作りにくく、人と出会う環境が減る
  • 他の生徒や教員との交流が少なくオンラインの交流のみになりやすい
  • 進路指導は少なく、自分から講座等を受講しないと情報が入りにくい
  • 行事や課外活動が少ないので、体験が狭くなりがち
  • 生活リズムを維持するのが難しいイラスト

その他/コメント・メッセージ

  • 全日制(進学系)で不登校になり、定時制に転校しました。正直、私には全日制は無理でした。普通を求められ、"不自由"や"強制"といった、悪い印象ばかりで、障害がある人、困り事が強い人には向いていないと思っています。 定時制に転校したことで、のびのびと高校生活を送ることができました。私は必修科目以上の発展科目(数Aや数2など)は受けずに、定時制だからできること、をたくさん経験しました。 市民講座を受けたり、資格試験を受けたり、商業科目を受けたり、独自の授業(私は博物館の勉強をしました)を受けて、全日制の高校じゃまず経験できないことばかりで、本当に充実していました。 ただ、大学に進学したら学力が足りていないことを痛感しましたが、大学は専門性の強い授業を受けるので、特に不便は感じませんでした。例えば、私は文系学部の大学に指定校推薦で入学しましたが、前述の通り理数系の科目をほとんど受けなかったので、入学生テストで酷い点数を取りました。でも文系学部なので特に問題なく、好成績で大学も卒業しています。 必要な学問・学力は人それぞれなので、大学進学などに学力が必要だと思うのなら、必履修科目以外の授業を自分で受ければ良いだけなので、定時制だから大学進学の不利だとは思いません。 また、定時制はやはり不登校を経験した人だったり、持病がある人、働きながら通う人、大人になってから学び直しをしている人など、様々な事情を持つ人が集まります。だからこそ、先生たちもとても気配りをしてくれると言いますか、話も聞いてくれるし、困ったことがあれば先生に相談しやすい環境が整っていました。イジメなども受けたことがありません。 私が高校生の時はまだAPDの診断も受けておらず、発達障害についても検査はしていませんでしたが、今こうして障害が見つかったからこそ、定時制高校で正解だったんだと思っています。
  • 自分はこういうことで悩んでいるというレジュメみたいなのがあれば便利かな。
    常に同様の聞こえ辛さではなく、環境はもちろん体調やストレスによっても聞き取り能力が変動することを知ってもらいたい。また、0か100の対応(通学で授業が受けにくいなら通信へ行け)というような対応ではなく、全日高校に通いながら、しんどさを軽減する合理的配慮をお願いしたい(現在県立の中高一貫校在席だが、中学入学時からずっと求めている合理的配慮は学校の事情で却下されており、そのために出席日数が足りなくなりそう。配慮を求めると通信をすすめられてしまうので悲しい。
  • 全日制課程を卒業後に浪人を経て国立大学に進学し、大学院に進学しました。現役の高校生ではないということをお伝えさせていただきます。 現在の私があるのは、高校の頃に全日制過程の環境があったからですが、実際に自己実現を目指すときには学校は足枷になりました。 高校に求めるのは多様な価値観と接触や自身の選択肢を広げることだと思います。 勉強なんて必要になった時にすればいいと思っています。イラスト

合理的配慮について

 2016年4月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(略称「障害者差別解消法」)において、障害者障壁をとりのぞくために合理的な配慮をすることが民間企業の努力義務として定められました。その後、2021年5月の法改正によって今後は法的義務として求められることとなり、2024年4月1日からは民間事業者においても合理的配慮が法的義務化される改正障害者差別解消法が施行されます。
 合理的配慮とは、障害者手帳を持っている人に限らず日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人すべてに適応されます。役所や事業所は配慮を求める意思表明を受けた場合、過度な負担になりすぎない範囲で社会的バリアを取り除くための配慮を行うことが求められます。この障害者差別解消法では、障害のある人・ない人のお互いが歩み寄り、理解し合う共生社会の実現を目指しています。